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東京地方裁判所 平成5年(ワ)2509号 判決

原告

荒井雄平

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

山嵜進

被告

荒井平介

右訴訟代理人弁護士

須賀一晴

秋田徹

被告

荒井秀

右訴訟代理人弁護士

松江康司

主文

一  原告らと被告荒井平介との間において、別紙遺産目録記載(一)ないし(四)の各財産につき、原告荒井雄平が五億九九六〇万九〇九五分の五九一万五一三八の割合の、その余の原告らがそれぞれ五億九九六〇万九〇九五分の二九七六万三四七一の割合の各共有持分を有することを確認する。

二  被告荒井秀は、原告荒井雄平に対し金一一三万〇〇三四円及びその余の原告らに対し各金五六八万六〇四七円並びにこれらに対する平成五年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  原告らと被告荒井平介との間において、別紙遺産目録記載(一)ないし(四)の各財産につき、原告らがそれぞれ一四分の一の割合の各共有持分を有することを確認する。

二  被告荒井秀は、原告らに対し、別紙物件目録記載(一)の不動産につき、平成三年一月九日遺留分減殺を原因とし、原告らの持分の割合を各一四分の一とする持分一部移転登記手続をせよ。

三  被告荒井秀は、原告荒井雄平に対し二九六〇万八七六八円及びその余の原告らに対し各三三七六万〇五五三円並びにこれらに対する平成五年三月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、荒井平八郎(以下「平八郎」という。)の非嫡出子である原告らが、包括受遺者である嫡出子の被告荒井平介(以下「被告平介」という。)及び被告平介の母で平八郎の妻であった被告荒井秀(以下「被告秀」という。)に対して遺留分減殺請求権を行使した上で、① 民法九〇〇条四号ただし書前段の規定は本件には適用されない、右規定は本件に適用される限りにおいて憲法一四条に反し無効である。又は、被告平介が民法九〇〇条四号ただし書前段の規定の適用を主張することは権利の濫用にあたると主張し、原告ら及び被告平介の法定相続分が同一であるから遺留分の割合は各一四分の一であるとして、被告平介に対しては、別紙遺産目録記載(一)ないし(四)の各財産につきそれぞれ一四分の一の割合の各共有持分を有することの確認を求めるとともに、② 平八郎の死亡後に三親等以内の傍系血族であることを理由として平八郎との婚姻を取り消された被告秀に対して、被告秀が婚姻中に取得した財産は平八郎から贈与を受けたものであるから、主位的に婚姻取消に基づく利益返還請求権が平八郎の遺産に属すると主張し、予備的に別紙物件目録記載(一)及び(六)の各不動産について民法一〇四〇条一項本文に基づく価額弁償請求権があると主張して、A 別紙物件目録記載(一)の不動産については右遺留分の割合に応じた持分一部移転登記手続を求め、かつ、B 原告荒井雄平(以下「原告雄平」という。)は二九六〇万八七六八円の、その余の原告らはそれぞれ三三七六万〇五五三円の支払を求めた事案である。なお、付帯請求の起算日は、訴状送達の日の翌日である。

一  争いのない事実及び証拠(括弧内に摘示)上明らかな事実(以下「争いのない事実等」という。)

1  平八郎は、原告雄平に対し、昭和五五年一一月一四日、株式会社山田木工所(以下「山田木工所」という。)の株式六五〇株を生計の資本として贈与した(以下「本件生前贈与」という。)。

2  平八郎は、昭和六二年九月一八日付公正証書遺言により、財産全部を包括して被告平介に遺贈した(作成日付につき甲二一、乙イ一〇)。

3  平八郎は、平成二年一月一六日に死亡し、相続(以下「本件相続」という。)が開始した。

4  平八郎の非嫡出子である原告ら、荒井八郎(以下「八郎」という。)及び荒井傳八(以下「傳八」という。)、平八郎の非嫡出子である亡荒井八重子(以下「八重子」という。)の子である荒井節子(以下「節子」という。)並びに平八郎の嫡出子である被告平介の七名は、平八郎の相続人である(節子につき甲三、同八、同一六ないし一八)。

5  被告秀は、昭和二九年一二月二日、平八郎と婚姻した。しかし、被告秀が平八郎の姪であり三親等以内の傍系血族にあたることから、平成三年九月二六日、右婚姻を取り消す判決が確定した。

6(一)  平八郎は、死亡時に、別紙遺産目録記載(一)ないし(四)の各財産を有しており、同目録記載(一)(1)ないし(5)の各口座の預金額並びに同目録記載(三)及び(四)の各財産の価額は、次のとおり合計一一〇万〇一四〇円であった。

同目録(一)(1)ないし(5)の各口座の預金額

同(1)の口座

六六万九七一八円(甲二二)

同(2)の口座 四四円(甲二二)

同(3)の口座 七八三六円(甲二五)

同(4)の口座 一五二二円(甲二四)

同(5)の口座 一〇二〇円(甲二三)

同目録(三)の電話加入権二口

合計一二万円

同目録(四)の家財道具一式

合計三〇万円

(二)  他方、平八郎の死亡時における負債は、次のとおり合計一億四七二四万一八九二円であった。

山田木工所からの借入金債務

三四八八万三六〇四円

別紙物件目録記載(七)の土地(以下「本件土地(七)」という。)の借地権の譲渡所得税 一億一〇一〇万一五八二円

葬儀費用 二二五万六七〇六円

7  原告らは、平成三年一月九日、被告らに対し、遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をした。

8  別紙物件目録記載(一)の土地持分(以下「本件土地持分(一)」という。)を含む一筆の土地(以下「本件土地(一)」という。)につき、東京法務局武蔵野出張所昭和三二年四月一一日受付第三七六三号の同日売買を原因とする所有権移転登記(平八郎及び被告秀の持分各二分の一)がある。

9  被告秀は、次のとおり各不動産について処分をした。

(一) 本件土地持分(一)について、平成三年二月二八日、根抵当権者帝都信用金庫、債務者被告平介、極度額一五〇〇万円とする根抵当権を設定し、同年一〇月二五日、根抵当権者帝都信用金庫、債務者株式会社卿建築設計事務所、極度額五〇〇〇万円とする根抵当権を設定した。

(二) 昭和六一年五月二七日、傳八に対して別紙物件目録記載(二)の土地持分(以下「本件土地持分(二)」といい、右土地持分を含む一筆の土地全体を「本件土地(二)」という。)を贈与した。

(三) 平成五年一一月二四日、株式会社真田興産に対して同目録記載(三)の土地(以下「本件土地(三)」という。)及び同目録記載(四)の建物持分(以下「本件建物持分(四)」という。)を含む建物全体(以下「本件建物(四)」という。)を合計六五〇〇万円で売り渡した。

(四) 昭和六一年五月二七日、傳八及び荒井昭子(以下「昭子」という。)に対して同目録記載(五)の建物(以下「本件建物(五)」という。)を贈与した。

(五) 平成元年一〇月一一日、同目録記載(六)の建物(以下「本件建物(六)」という。)を有限会社秀に現物出資した。

二  争点

1  別紙遺産目録記載(二)の有限会社秀の持分五万五〇〇〇口の価額

(原告らの主張)

有限会社秀の持分五万五〇〇〇口の本件相続開始時の価額は、一一億四七六五万七五〇〇円である。

(被告平介の主張)

原告らの右主張は争う。右持分の価額は、四億八三九四万五〇〇〇円である。

2  本件生前贈与の価額

(被告平介の主張)

山田木工所の株式六五〇株の本件相続開始時における価額は、合計二七一〇万八二五〇円である。

(原告雄平の主張)

被告平介の右主張は争う。右株式の価額は、七一六万一〇五〇円である。

3  被告秀に対する利益返還請求権は、平八郎の遺産に含まれるか。

(原告らの主張―主位的主張)

(一) 被告秀は、別紙物件目録記載(一)ないし(六)の各不動産を平八郎との婚姻により取得したところ、右婚姻の取消しにより、平八郎の包括受遺者である被告平介は、被告秀に対して右各不動産(処分された不動産については、その価額)につき民法七四八条三項本文の利益返還請求権を取得したこととなる。そして、原告らは、被告平介に対する遺留分減殺請求権の行使により、それぞれ右利益返還請求権の一四分の一を取得した。以下、詳述する。

(二) 被告秀は、前記平八郎との婚姻の当時、その取消原因があることを知っていた。

(三)(1) 平八郎は、次のとおり各土地持分ないし土地を各年月日に買い受け、同日、これを被告秀に対して贈与した。

本件土地持分(一) 昭和三二年四月一一日

本件土地持分(二) 昭和三一年一〇月二四日

本件土地(三) 昭和四四年五月二八日

(2) 平八郎は、本件建物(四)を昭和四五年五月三〇日に建築し、昭和五四年五月二九日、本件建物持分(四)を被告秀に贈与した。

また、平八郎は、本件建物(五)を昭和五四年二月二〇日に建築し、同日、これを被告に贈与した。

その後、平八郎は、本件建物(六)を昭和五五年三月二三日に建築し、昭和六一年五月二七日、これを被告秀に贈与した。

(3) 以上のとおり、被告秀は、右各不動産を平八郎との婚姻により取得した。

(四) 被告秀は、右各不動産につき前記一9のとおりの処分をしたが、処分された財産の価額は、次のとおりである。

(1) 本件土地持分(一)について、平成三年二月二八日の根抵当権設定により処分された価値は、極度額相当額である一五〇〇万円であり、同年一〇月二五日の根抵当権設定により処分された価値は、極度額相当額である五〇〇〇万円である。

(2) 本件土地持分(二)の価額は、二億〇九六三万九一一五円である。

(3) 本件土地(三)及び本件建物(四)の価額は、合計六五〇〇万円である。

(4) 本件建物(五)の価額は、一五三二万一六三六円である。

(5) 本件建物(六)の価額は、二億五二四〇万円である。

(五) したがって、被告秀に対する利益返還請求権(本件土地持分(一)及び処分された各財産の価額の合計六億〇七三六万〇七五一円)についても、平八郎の遺産に含まれ、その各一四分の一が原告らに帰属するから、原告らは、被告秀に対し、本件土地持分(一)につき各持分一四分の一の移転登記手続を求めるとともに、四三三八万二九一〇円の一部として、原告雄平は二九六〇万八七六八円及びその余の原告らはそれぞれ三三七六万〇五五三円を請求する。

(被告らの主張)

原告らの右主張は争う。

(一) 婚姻取消の場合における財産関係は、原則として財産分与の規定により清算されるべきであり、利益返還請求権は、右財産分与の規定を適用した上で配偶者間の財産関係に著しい不均衡が生じる場合、すなわち、婚姻期間が短く、かつ、その間に多額の財産が移転された場合にのみ適用されるべきである。

そして、本件では、平八郎と被告秀の婚姻期間は約四〇年の長期にわたっており、しかも、平八郎から被告秀に対する右婚姻期間中の財産移転は、平八郎の財産全体に比して著しく多額とはいえず、一時に集中しているわけでもない。

したがって、本件については、民法七四八条二項及び三項本文のいずれの規定も適用されず、原告らに利益返還請求権は認められない。

(二) 被告秀は、山田木工所において営業、経理等を指揮監督しており、同社から支払われた給与をもって別紙物件目録記載(一)ないし(六)の各不動産を次のとおり取得した。したがって、右各不動産は、被告秀の固有の資産である(ただし、被告平介との間では、本件建物(六)が平八郎から被告秀に贈与されたことについて争いがない。)。

(1) 昭和三二年四月一一日、藤野滝蔵から、本件土地持分(一)を買い受けた。

(2) 昭和三一年一〇月二四日に本件土地持分(二)を買い受け、昭和五四年二月二〇日に本件土地(二)上に本件建物(五)を建築した。

(3) 昭和四四年五月二八日、本件土地(三)を約八〇〇万円で買い受け、昭和五四年五月二九日、本件建物(四)を建築した。

(4) 昭和六一年五月二七日、本件建物(六)を建築した。

(三) 以上のとおりであるから、被告秀に利益返還義務はない。

(被告平介の主張)

仮に、右各不動産のうち別紙物件目録記載(二)及び(五)の各不動産が平八郎から被告秀に贈与されたものであるとしても、右各不動産は、相続人の一人である傳八の強迫により贈与されたものであるから、被告秀は、右各不動産に関して利益返還義務を負わない。

4  被告秀に対する価額弁償請求権があるか。

(原告らの主張―予備的主張)

被告秀は、平八郎から、昭和三二年四月一一日に本件土地持分(一)の、昭和六一年五月二七日に本件建物(六)の贈与を受けたが、被告秀と平八郎は、原告ら遺留分権利者に損害を与えることを知って、右各贈与をした。

したがって、原告らは、被告秀に対し、右各不動産について民法一〇四〇条一項本文に基づく価額弁償請求権を有する。

(被告秀の主張)

原告らの右主張は争う。

5  被告秀は、平八郎の相続人にあたるか。

(原告らの主張)

前記のとおり、被告秀と平八郎の婚姻は、判決により取り消されたから、被告秀は、平八郎の相続人にはあたらない。

(被告秀の主張)

婚姻取消は、民法七四八条一項により原則として遡及効がなく、同条項は、相続についても適用されるべきであるから、被告秀は、平八郎の相続人にあたる。

すなわち、被告秀の婚姻取消原因は、いわゆる近親婚であり、法が近親婚を禁止する趣旨は、優生学的見地及び社会倫理的見地によるものであるところ、前記婚姻は、婚姻後三五年以上を経て夫婦間の子も成長し、しかも配偶者が死亡した後に取り消されたのであるから、右近親婚禁止の趣旨からみて、婚姻取消の効果は、制限的に解すべきである。また、現代の相続は、主として配偶者の貢献ないし寄与分の清算の趣旨でなされるところ、取り消された婚姻についても配偶者の貢献ないし寄与は同一であるから、婚姻取消により相続の効果を遡及的に無効とするのは相当ではない。更に、平八郎は、死亡するまで被告秀を妻とし、自己の財産を被告秀が相続することは当然と考えていたのであるから、被告秀に相続をさせないことは、平八郎の意思に反し、ひいては、被相続人の意思を尊重する相続制度に反する。

したがって、相続についても、民法七四八条一項の規定が適用されるべきであるから、婚姻取消の効果は遡及せず、被告秀は、相続人にあたる。

6  民法九〇〇条四号ただし書前段の規定の適用はあるか。

(原告らの主張)

(一) 民法九〇〇条四号ただし書前段の「嫡出である子」には、被告平介のように婚姻の届出をした夫婦の間に出生したが、その後右婚姻の取消しがあった場合の子は含まれないと解すべきであるから、本件には右規定の適用はない。

(二) 仮に、右規定中の「嫡出である子」に近親婚という取消原因のある婚姻を除外することなく婚姻中に生まれた子すべてが含まれるのであれば、右規定は、本件に適用される限りにおいて、憲法一四条に違反し、無効である。

すなわち、平八郎と原告らの母石塚とし(以下「とし」という。)は、昭和四年ころ、事実上の婚姻をした。しかし、としは、平八郎の姪であり三親等以内の傍系血族にあたることから法律上の婚姻はできず、昭和一九年四月九日に死亡した。他方、被告秀は、昭和一九年末に平八郎と事実上の婚姻をしたが、平八郎の姪であり三親等以内の傍系血族にあたることから、約一〇年間は事実婚のままであり、昭和二九年一一月二七日、茨城県水海道市において海老沼てるの養女となる旨の養子縁組をし、その二日後の同月二九日に東京都三鷹市において分籍をして新戸籍を編製させ、同年一二月二日に平八郎と婚姻した。ところで、被告秀の右分籍に係る届書が東京都三鷹市から茨城県水海道市に送付されたのは同月一五日であり、平八郎との婚姻は右届書の送付以前になされたものであるから、これらの一連の行為は、近親婚であることを戸籍事務を管掌する市長が看過することを狙ってなされたことが明白である。しかも、被告平介は、昭和二〇年六月五日に出生しているにもかかわらず、昭和二九年一二月二五日に出生届が出されているのである。

以上のとおり、原告らは、としが平八郎と三親等以内の傍系血族であり婚姻届を出すことができなかったことから非嫡出子とされたのに対し、被告平介は、被告秀がとしと同様平八郎と三親等以内の傍系血族であるにもかかわらず、前記のとおり戸籍事務を管掌する市長を欺き、法に反して婚姻届を受理させたのである。したがって、右具体的事情の下において、原告らの法定相続分が被告平介の法定相続分の二分の一として遺留分の割合が計算されることは、違法な婚姻を積極的に容認し、法を遵守した者を差別する結果となり、著しく不合理であるから、民法九〇〇条四号ただし書前段の規定が本件に適用される限りにおいて、憲法一四条に違反し、無効である。

(三) 仮に、右(二)の主張が認められないとしても、被告平介が前記事実関係の下で民法九〇〇条四号ただし書前段の規定の適用に基づく遺留分の割合を主張するのは、権利の濫用にあたる。

(四) 以上のとおりであるから、原告らの遺留分の割合は、各一四分の一である。

(被告平介の主張)

原告らの右主張は争う。

民法七四八条一項により、婚姻取消の効果は、身分関係については遡及しないとされている。したがって、原告らは、民法九〇〇条四号ただし書前段の非嫡出子にあたり、その遺留分の割合は、各一六分の一である。

7  原告雄平の遺留分減殺請求権の行使は、信義則違反・権利濫用にあたるか。

(被告平介の主張)

原告雄介は、東京地方裁判所八王子支部昭和五五年(ヨ)第四六四号不動産仮処分申請事件の和解において、平八郎から山田木工所の経営権(株式全部)を取得したが、これは、平八郎の遺産相続について遺留分減殺請求権を含めて一切の権利を行使しない旨の黙示の合意を前提としていた。したがって、原告雄平による遺留分減殺請求権の行使は、信義則に反し、又は権利の濫用にあたる。

(原告雄平の主張)

被告平介の右主張は争う。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  証拠(乙イ一九、同二二)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 有限会社秀の全持分は六万七〇〇〇口であり、このうち、五万五〇〇〇口を平八郎が、一万二〇〇〇口を被告秀が有していた。

(二) 平成二年ころ、有限会社秀の資産は、次のとおりであった。

(1) 資産(合計八億〇一三二万七三〇六円)

現金及び預金 三六五万六六八二円

本件建物(六) 一億一四五五万円

建物付属設備 七六七万〇六二四円

本件土地(七)の借地権

六億七五四五万円

(2) 負債(合計二億一一七六万九五七二円)

短期借入金 六〇九万二〇〇〇円

未払金 一〇三一万九二二二円

預り金 四五万二三五〇円

長期借入金

一億九四九〇万六〇〇〇円

2  したがって、右資産から右負債を控除した金額は五億八九五五万円(一万円未満切捨て計算)であるところ、有限会社秀の総持分は六万七〇〇〇口であるから、同社の持分五万五〇〇〇口の価額は、四億八三九五万八九五五円となり、争点1に関する原告らの主張は、右価額の限度において、理由がある。

3  原告らは、同社の持分五万五〇〇〇口の価額は一一億四七六五万七五〇〇円であると主張し、証拠(甲四二、不動産鑑定士岡本重史作成の不動産鑑定評価書)には、本件建物(六)の価額は二億五二四〇万円、本件土地(七)の借地権価額は一三億四六一〇万円である旨の記述部分があり、右各価額を基に右持分の価額を計算すると、原告ら主張の価額となる。

しかしながら、証拠(甲四二)によれば、本件建物(六)は、借地権付貸家(テナントビル)であるが、右鑑定評価においては借地権付自己使用の建物とされていることが認められるから、右記述部分は、事実に反する鑑定条件を前提とする鑑定評価に基づくものであって、採用できない。

二  争点2について

1  前記争いのない事実等及び証拠(甲五八、同五九、同六三、同六四の一、同八三、乙イ二)によれば、次の事実が認められる。

(一) 平八郎は、原告雄平に対し、昭和五五年一一月一四日、山田木工所の株式六五〇株を生計の資本として贈与したが、右贈与時における同社の発行済株式総数は三九〇〇株であった。

(二) 山田木工所の昭和五五年八月三一日における土地以外の資産額は合計五四六八万七五二一円であり、負債額は合計六八四一万五〇九七円であった。

(三) 山田木工所は、本件生前贈与当時、東京都東村山市久米川町一丁目三四番一六の土地を所有し、昭和五七年一一月一七日、右土地を同番一六(326.02平方メートル)と同番四二(36.67平方メートル)に分筆したが、これは、同年一〇月二八日、東京都が分筆後の同番四二の土地に相当する部分の土地を道路として使用する目的で買い取ったためである。

そして、本件相続開始当時(平成二年一月一六日)、分筆後の同番一六の土地の価額は一億五八一二万円(一平方メートルあたり約四八万五〇〇〇円)であり、同番四二の土地の価額は一七八万円(一平方メートルあたり約四万八五〇〇円)であって、その合計額は、一億五九九〇万円である。

(四) 全国消費者物価指数(昭和六〇年度を一〇〇とする。)は、昭和五五年度は87.3、平成二年度は106.9である。

2  右認定事実によれば、昭和五五年八月三一日における山田木工所の土地以外の右資産額に87.3分の106.9を乗じた額と前記土地の価額との合計額から同日における右負債額に87.3分の106.9を乗じた額を控除することにより、山田木工所の本件相続開始時における資産総額は、合計一億四三〇九万円(一万円未満切捨て計算)と算出できる。そして、同社の発行済株式総数が三九〇〇株であることは、前記認定のとおりであるから、同社の株式六五〇株の価額は、二三八四万八三三三円となる。

3  なお、証拠(乙イ二、不動産鑑定士小田切寛、同十文字良二及び同髙橋丈人作成の不動産鑑定評価書)には、平成三年二月二〇日における一平方メートルあたりの単価が、同番一六の土地については五三万五〇〇〇円、同番四二の土地については五万三五〇〇円である旨の記述部分がある。しかしながら、右記述部分は、本件相続開始時(平成二年一月一六日)ではなく平成三年二月二〇日の価額を記述したものであるから、採用できない。

三  争点3について

1  前記争いのない事実等、証拠(甲三、同八、同一四、同一五、同二八ないし三四、同四三、同四四、同四六の一、二、同四八、同四九、同五〇の一ないし四、同五一及び五二の各一ないし六、同五三の一ないし五、同六四の一、同六五の一ないし八、同六八ないし七二、同七八、乙イ三ないし五、同一一、乙ロ一の一ないし一〇、同二ないし四、同五の一、二、原告雄平本人、原告秋山幸子本人、原告臺信和子本人、被告平介本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)(1) 本件土地(一)につき、東京法務局武蔵野出張所昭和三二年四月一一日受付第三七六三号の同日売買を原因とする共有者平八郎及び被告秀に対する所有権移転登記手続がなされた。

平八郎は、昭和五六年一一月二五日、自己の右持分二分の一を被告平介の妻である荒井千鶴子に贈与した。

(2) 本件土地(二)につき、東京法務局武蔵野出張所昭和三一年一〇月二四日受付第一〇四七三号の同日売買を原因とする共有者平八郎及び被告秀とする所有権移転登記手続がなされた。

平八郎は、昭和五六年一一月二五日、自己の右持分二分の一を昭子に贈与した。

また、被告秀は、昭和六一年五月二七日、本件土地持分(二)を傳八に贈与した。

(3) 本件土地(三)につき、静岡地方法務局沼津支局昭和四五年九月一二日受付第一八三九九号の昭和四四年五月二八日売買を原因とする被告秀に対する共有者(金指きみ、金指敏明、矢田誠、橋本数枝及び小林玲子)全員持分全部移転登記手続がなされた。

(4) 本件建物(四)は、昭和四五年五月三〇日に建築されたところ、平八郎は、右建物につき静岡地方法務局沼津支局昭和五一年八月六日受付第一五一九九号の所有権保存登記手続をし、昭和五四年五月二九日、本件建物持分(四)を被告秀に贈与した。

また、平八郎は、同日、傳八及び昭子に対し、それぞれ右建物の持分三分の一を贈与したが、傳八及び昭子は、昭和六一年五月二七日に右各持分を被告秀に贈与した。

そして、被告秀は、平成五年一一月二四日、本件土地(三)及び本件建物(四)を合計六五〇〇万円で株式会社真田興産に売り渡したが、右建物については、建築後二三年を経過し、老朽化していたため、無価値のものとして売り渡された。

(5) 本件建物(五)は、昭和五四年二月二〇日に建築されたところ、被告秀は、右建物につき東京法務局武蔵野出張所昭和五四年六月八日受付第一二一七〇号の所有権保存登記手続をし、昭和六一年五月二七日、右建物の持分二分の一をそれぞれ傳八及び昭子に贈与した。傳八及び昭子は、平成三年四月二三日、右建物を取り壊した。

(6) 本件建物(六)は、昭和五五年三月二三日に建築されたところ、平八郎は、右建物につき東京法務局武蔵野出張所昭和五五年三月二七日受付第五八八七号の所有権保存登記手続をし、昭和六一年五月二七日、これを被告秀に贈与した。

そして、被告秀は、平成元年一〇月一一日、右建物を有限会社秀に現物出資した。

(二) 平八郎は、昭和一〇年ころは東京都中野区に居住していたが、昭和一二年ころまでには東京都武蔵野市吉祥寺に移転し、そのころ、家具の製造・販売業を営んでいた。

としは、昭和一九年四月九日に死亡した。被告秀は、同年六月ころ、平八郎と事実上婚姻し、家事をするとともに、少なくとも店番として右業務に従事していた。平八郎は、昭和二二年四月三〇日に山田木工所を設立して、右家具の製造・販売業を本格化し、同社は、昭和二八年一一月ころから経理を担当する従業員を雇用していた。

ところで、平八郎は、本件土地(七)の上に、木造瓦葺三階建の店舗兼居宅を所有しており、東京法務局武蔵野出張所昭和一九年三月三〇日受付第一三〇四号の同月二九日売買を原因とする所有権移転登記手続をし、また、右土地上の木造瓦葺二階建の工場を所有し、東京法務局武蔵野出張所昭和二二年一二月一七日受付第四五〇一号の所有権保存登記手続をした(なお、右各建物は、昭和五三年一二月二〇日、取り壊された。)。

その後、平八郎は、昭和三一年一〇月一〇日、山田木工所に対し、自己の所有する建物、付属設備一式、土地及び営業権を賃貸した。

また、平八郎は、中央信託銀行株式会社との間で第三者名義で信託取引をしており、昭和四六年七月一九日に合計二七三万〇五三七円の払い戻しを受けた。

(三) 被告秀は、山田木工所から、昭和四六年一二月ころ六万四〇〇〇円(月額、以下同じ。)、昭和四八年七月ないし一一月ころ七万六〇〇〇円、昭和四九年七月ころ一六万円、昭和五〇年一〇月ないし翌年八月ころ一七万円、翌九月ころ一一万円、翌五二年七月ころ一二万六〇〇〇円、昭和五五年七月ないし一〇月ころ八万円の各給与を支給されていた。

また、被告秀は、遅くとも昭和四九年ころから昭和五五年一一月二七日まで山田木工所の取締役であり、昭和五四年九月一日から翌年八月三一日までに、同社から役員報酬として一二九万六〇〇〇円を得ており、同社に対して九二万三一一四円を貸し付けていた。なお、昭和五五年八月三一日における山田木工所の発行済株式総数は三九〇〇株であり、そのうち、平八郎が一三〇〇株、被告秀が一二五〇株、原告雄平が四〇〇株、八郎が三五〇株、傳八が三〇〇株、被告平介が二五〇株を有していた。

2  被告らは、婚姻取消の場合における財産関係は、原則として財産分与の規定により清算されるべきであり、民法七四八条二項及び三項本文の規定は適用されないと主張するので、まず、この点について検討するに、民法は、婚姻取消の場合の配偶者間における財産関係について、利益返還請求権(同法七四八条二項及び三項本文)と財産分与(同法七四九条、七六八条)を規定しているが、右各規定は、互いに両立する関係にあり、一方の適用により他方が排斥される関係にはないと解される。したがって、被告らの右主張は、採用できない。

3(一)  前記1で認定した事実、殊に、平八郎を中心として家具の製造・販売業を営んできたが、被告秀も家事を行いながら少なくとも店番として右業務に従事していたこと、被告秀は、山田木工所から給与を支給されていたこと、平八郎は、本件土地(七)上の工場及び店舗兼居宅並びに本件建物(四)及び本件建物(六)については、単独の所有名義で登記手続をしていること、他方、本件土地(一)及び本件土地(二)については、被告秀と平八郎の各二分の一ずつの共有名義で登記手続がなされ、本件土地(三)及び本件建物(五)については、被告秀の単独所有とする登記手続がなされていること、更に、本件土地(一)につき、平八郎の持分のみが荒井千鶴子に贈与されていること、本件土地(二)についても平八郎が持分二分の一を昭子に贈与した時期と、被告秀が本件土地持分(二)を傳八に贈与した時期が異なっているのみならず、平八郎の持分が先に贈与されていることにかんがみ、かつ、被告秀名義の前記各登記が形式上のものにすぎないことを認めるに足りる的確な証拠もないことを併せ考えると、平八郎が本件建物(四)及び本件建物(六)を建築し、本件建物持分(四)及び本件建物(六)を被告秀に贈与した事実は認められるが、平八郎が本件土地持分(一)及び(二)並びに本件土地(三)を買い受け、また、本件建物(五)を建築して、これらを被告秀に贈与した事実は認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件土地持分(一)、同持分(二)、本件土地(三)及び本件建物(五)に関する原告らの主張は、理由がない。

(二)(1)  証拠(甲三五の一、乙イ七)によれば、被告秀と傳八らとの間の東京地方裁判所昭和六二年(ワ)第一一五八八号所有権移転登記抹消登記手続等請求事件において、傳八らが本件土地(一)ないし(三)及び本件建物(四)ないし(六)は、被告秀名義のものも含めて、すべて平八郎が取得した財産である旨主張し、被告秀は、これを特に争っていないことが認められる。

しかしながら、証拠(甲三五の一ないし三、乙イ六、同七、被告平介本人)によれば、右訴訟においては、被告秀から傳八に対する本件土地持分(二)の贈与並びに被告秀から傳八及び昭子に対する本件建物(五)の贈与の有効性が主たる争点とされ、右各不動産が被告秀の所有であるか平八郎の所有であるかが争われた事件ではないことが認められる。

(2) 次に、平八郎と山田木工所間の前記賃貸借契約は、平八郎が所有する財産を山田木工所に賃貸するという内容であるところ、右賃貸借契約の対象となる土地の記載は必ずしも明確ではなく、しかも、本件土地(一)及び(二)は、被告秀と平八郎の各持分二分の一として登記手続がなされているのであるから、右賃貸借契約の締結により、平八郎が右各土地について自己の持分のほかに被告秀の持分も平八郎名義で賃貸したとまでは認められない。

(3) 前記第三者名義による平八郎の信託取引についても、前記認定のとおり、前記払戻しが行われたのは昭和四六年七月一九日であり、他方、本件土地(三)に関する登記原因である売買の日付は昭和四四年五月二八日、本件建物(四)が建築されたのは昭和四五年五月三〇日であるから、右払戻しに係る金員が本件土地(三)及び本件建物(四)を取得する資金に充てられたと推認することはできない。

(4) 以上のとおりであるから、右別件における被告秀の主張、平八郎と山田木工所間の賃貸借契約の内容及び払戻し等の各事実は、前記(一)に判示した結論に影響を及ぼすものではない。

4  次に、被告秀が本件土地(三)及び本件建物(四)を株式会社真田興産に六五〇〇万円で売却した際、右建物が無価値とされたこと、平八郎が右建物を建築してから被告秀に持分三分の一を贈与するまで約九年経過していることは、前記認定のとおりであり、これと、本件全証拠によっても、右建物の建築費用又は平八郎が被告秀に対して本件建物持分(四)を贈与した時点における右建物持分の価額を認めるに足りないことを併せ考慮すると、本件建物持分(四)についての原告らの主張も、理由がない。

5  本件建物(六)の本件相続開始時の価額が一億一四五五万円であることは、前記一1で認定したとおりであり、被告秀が右建物を有限会社秀に現物出資したことは、当事者間に争いがなく、前記認定の事実関係によれば、被告秀は、平八郎との婚姻当時、その取消原因があることを知っていたものと推認できるから、右同額の利益返還請求権が平八郎の遺産に含まれるものといわなければならない。

6  以上のとおりであるから、争点3に関する原告らの主張は、右価額の限度において理由がある。

四  争点4について

原告らは、本件土地持分(一)が平八郎から被告秀に贈与され、右贈与の当時、被告秀及び平八郎は、原告らの遺留分を侵害することを認識していたと主張するが、平八郎が本件土地持分(一)を所有していた事実が認められないことは、前記三のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、争点4に関する原告らの主張は、理由がない。

五  争点5について

1  前記争いのない事実等、証拠(甲二ないし四、同九、同一〇、乙イ一一、被告平介本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

平八郎の姪である被告秀は、昭和一九年六月ころに平八郎と事実上の婚姻生活を開始し、昭和二〇年六月五日に被告平介を出産し、昭和二九年一二月二日、平八郎と婚姻の届出をした。平八郎は、平成二年一月一六日に死亡し、平成三年九月二六日に右婚姻を取り消す判決が確定した。

2  婚姻取消の効力は原則として遡及しないが、右認定事実によれば、平八郎の死亡により平八郎と被告秀との婚姻は解消しているのであるから、右婚姻が取り消されると、平八郎の死亡の時に右婚姻が取り消されたことになり、その結果、被告秀は、平八郎の配偶者としての相続権を有しなかったことになると解される。

なお、被告秀の主張する、被告秀と平八郎との婚姻が取り消されるまでの継続期間、被告秀と平八郎との間の子である被告平介の右婚姻取消の時の年齢、被告秀の右婚姻期間中の貢献ないし寄与の度合、平八郎の意思等の諸事情は、前記判断を左右するものではない。

したがって、争点5に関する被告秀の主張は、理由がない。

六  争点6について

1 まず、原告らは、民法九〇〇条四号ただし書前段の「嫡出である子」には、婚姻の届出をした夫婦の間に出生したが、その後右婚姻が取り消された場合の子は含まれないと主張する。

しかしながら、右規定は、適用される嫡出子の範囲について何ら制限を設けていない。また、民法七四八条一項は、婚姻関係が存続していることを尊重して、婚姻取消の効果を遡及させない旨規定したのであって、婚姻が取り消された場合、その間に生まれた子は、嫡出子としての地位を失うことはないのであるから、民法九〇〇条四号ただし書前段の「嫡出である子」が両親の婚姻が取り消された場合の嫡出子を殊更除外していると解することはできない。

したがって、この点に関する原告らの主張は、主張自体失当である。

2 次に、民法九〇〇条四号ただし書前段の規定が本件に適用される限りにおいて、憲法一四条に違反して無効であるとの原告らの主張について検討する。

(一)  前記争いのない事実等、証拠(甲二ないし一〇、同一二ないし二〇、同四四、乙イ一一、原告雄平本人、被告平介本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

としは、昭和四年ころ、叔父である平八郎と事実上の婚姻生活を開始し、その後、非嫡出子として原告ら、八重子、八郎及び傳八を出産したが、昭和一九年四月九日に死亡した。なお、八重子は、昭和五二年二月二八日に死亡したところ、節子は、八重子の子である。

これに対し、平八郎の姪である被告秀は、昭和一九年六月ころに平八郎と事実上の婚姻生活を開始した。そして、被告秀は、昭和二九年一一月二七日、茨城県水海道市において海老沼てるの養子となる旨の届出をし、同月二九日、東京都三鷹市において、右海老沼てるの戸籍から分籍の届出をした上、新戸籍を編製させ、同年一二月二日、平八郎と婚姻の届出をし、右分籍に係る届書は、同月一五日に東京都三鷹市長から茨城県水海道市長に送付された。なお、被告平介は、昭和二〇年六月五日に出生したが、昭和二九年一二月二五日に出生届が受け付けられたため、嫡出子とされた。

その後、平八郎は、平成二年一月一六日に死亡した。原告らは、遅くとも昭和三〇年代には被告秀が平八郎の姪にあたることを認識していたが、平八郎死亡後、平八郎と被告秀の婚姻について取消訴訟を提起し、平成三年九月二六日に右婚姻を取り消す判決が確定した。

(二)  右認定の事実関係によれば、原告らの遺留分は、原告らの法定相続分が被告平介の法定相続分の二分の一として計算されることになる。

これに対し、原告らは、原告らと被告平介は、いずれも平八郎と同人の三親等以内の傍系血族である姪との間の子であるにもかかわらず、としが近親婚禁止の規定に従い婚姻をしなかったために原告らは非嫡出子とされ、他方、被告秀が近親婚禁止の規定に反して婚姻したために被告平介は嫡出子とされた結果、原告らの法定相続分が被告平介の法定相続分の二分の一として遺留分の割合が計算されることは不当であるから、民法九〇〇条四号ただし書前段の規定が本件に適用される限りにおいて、憲法一四条に違反し、無効であると主張する。

しかしながら、原告らの遺留分について原告らの法定相続分が被告平介の法定相続分の二分の一であるとして計算されることになるという右結論は、専ら、民法七四八条一項により婚姻取消の効果が遡及せず、婚姻取消後も被告平介が嫡出子としての地位にあることにより導かれるものであるところ、右規定は、前判示のとおり婚姻関係が存続していることを尊重する趣旨で設けられたものと解せられ、現行民法が法律婚主義を採用していることにかんがみると、右規定の立法理由にも合理的な根拠があるものというべきであるから、民法九〇〇条四号ただし書前段の規定が憲法一四条に違反しないと解される以上、本件に民法九〇〇条四号ただし書前段の規定を適用しても、憲法一四条に違反するものではないといわざるを得ない。

(三)  したがって、この点に関する原告らの主張は、理由がない。

3 次に、被告平介が民法九〇〇条四号ただし書前段の規定の適用を主張することは権利の濫用であるとの原告らの主張について検討する。

前判示の諸点を併せ考えると、前記認定の事実関係の下において、被告平介において民法九〇〇条四号ただし書前段の規定の適用に基づく遺留分の割合を主張することが権利の濫用であるとまでは認められない。

したがって、この点に関する原告らの主張も、理由がない。

4  以上のとおりであるから、平八郎の相続人は、非嫡出子である原告ら、八郎、傳八、平八郎の非嫡出子である八重子の子である節子及び嫡出子である被告平介の七名であり、原告らの遺留分の割合は、各一六分の一となる。

七  争点7について

1  前記争いのない事実等、証拠(甲六六の二ないし四、同七五、乙イ一)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

平八郎は、昭和五五年一一月一四日、東京地方裁判所八王子支部昭和五五年(ヨ)第四六四号不動産仮処分申請事件の和解において、右事件の解決金及び生計の資本としての贈与として山田木工所の株式一三〇〇株を原告雄平に譲渡したが、右和解においては、原告雄平が平八郎の遺産相続について遺留分減殺請求権等の権利を行使しないとの条項は入れられなかった。また、同月ころ、山田木工所に対し、傳八は三五〇株、被告平介は二五〇株、被告秀は一二五〇株の山田木工所の株式を譲渡した。他方、平成二年一二月一八日に成立した東京地方裁判所昭和六二年(ワ)第一一五八八号所有権移転登記抹消登記手続等請求事件の和解においては、傳八が平八郎の遺産相続について遺留分を放棄する旨の合意がなされた。

2  右認定事実によっては、原告雄平が平八郎の遺産相続について遺留分減殺請求権を含めて一切の権利を行使しない旨の黙示の合意があったとの事実を推認するに足りず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、争点7に関する被告平介の主張は、理由がない。

第四  結論

以上のとおりであるから、遺留分算定の基礎となる財産の総額は、別紙遺産目録記載(一)、(三)及び(四)の各財産の価額の合計一一〇万〇一四〇円、同目録記載(二)の財産(有限会社秀の持分五万五〇〇〇口)の価額四億八三九五万八九五五円、本件生前贈与(山田木工所の株式六五〇株)の価額二三八四万八三三三円並びに平八郎の被告秀に対する利益返還請求権一億一四五五万、以上の総額六億二三四五万七四二八円から平八郎の負債合計一億四七二四万一八九二円を控除した残額四億七六二一万五五三六円となる。そして、原告らの遺留分割合は、各一六分の一であるから、原告秋山幸子及び原告臺信和子の具体的遺留分額は、各二九七六万三四七一円となり、原告雄平の具体的遺留分額は、右価額から本件生前贈与の価額二三八四万八三三三円を控除した残額五九一万五一三八円となる。他方、減殺の対象である平八郎の全相続財産の本件相続開始時の価額は、別紙遺産目録記載(一)、(三)及び(四)の各財産の価額の合計一一〇万〇一四〇円、同目録記載(二)の財産(有限会社秀の持分五万五〇〇〇口)の価額四億八三九五万八九五五円並びに平八郎の被告秀に対する利益返還請求権一億一四五五万円の合計五億九九六〇万九〇九五円である。

したがって、原告らの被告平介に対する請求は、別紙遺産目録記載(一)ないし(四)の各財産につき、原告雄平が五億九九六〇万九〇九五分の五九一万五一三八の割合の、その余の原告らがそれぞれ五億九九六〇万九〇九五分の二九七六万三四七一の割合の各共有持分を有することの確認を求める限度において理由があり、被告秀に対する請求は、原告雄平が一一三万〇〇三四円及びその余の原告らが各五六八万六〇四七円並びにこれらに対する被告秀に対する本件訴状送達の日が記録上明らかな平成五年三月二五日の翌日である同月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、原告らの被告らに対する請求は、右各限度において認容し、原告らの被告らに対するその余の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官飯田敏彦 裁判官志田原信三 裁判官古谷健二郎)

別紙遺産目録〈省略〉

別紙物件目録〈省略〉

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